「おい、あれ・・・!」
「なっ・・・なんてこの場に似合わないんだ!」
「し、“死の外科医”がこんなところに・・・・!?」


「キャプテン、なんかおれたち注目の的だね!」
「・・・・・・・・・」


ローは、心底うんざりした顔で、クルー達とはしゃぎながら先を駆けてゆくベポを見やる。いつも元気なベポだが、今日はそのはしゃぎっぷりに更に磨きがかかっていて手に負えない。

そう、ハートの海賊団は今、シャボンディパークへと足を踏み入れたところだった。


「お前ら、あまり遠くへは行くなよ。特にベポ、お前は人攫い屋に気をつけろ」


まるで父親のような発言をするロー。それに『アイアイ!キャプテン!!』と声を揃えて答えるクルー達だが、浮かれた彼らがローの言いつけを守れるかどうかなど甚だ怪しいというもので。ローは盛大に溜息を吐いて、彼らの後を追っていく。


―――ったく・・・、元気が良すぎるのも考えモンだな


ローは、こうなってしまった経緯をぼんやり思い出しながら、何度目か分からない溜息をまた吐くのだった。


***



「うっ、うわああああああぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜!!!!!」


黄色い潜水艦にその叫び声が響き渡ったのは、あと一息仕事をすればランチタイムという頃だった。叫び声の主、白クマのベポは、目の前の光景が信じられなくて硬直していた。声を聞きつけたクルー達が、何事かと駆けて来る足音が聴こえる。
ローはと言えば、自室の扉を開けるや否や目を見開いてどでかい叫び声をあげたベポに、こちらもまた何事だもう少し静かにできねェのか・と、眉間に盛大に皺を寄せる。
真っ先に駆けてきたシャチが、『ど、どうしたベポ!何があった!?』と声を掛け、ベポと同じように船長室の中に視線を向ける。


「っ!!!?」


その後に続く者も、船長室を覗いては皆同様に固まってゆく。そんなクルー達の様子を見て、何となくローはベポが叫んだ理由を掴んでいた。こいつ等はおれを何だと思ってんだ・と、心の中で毒づきながら。

朝方ペンギンが部屋に戻り、ひとりになってみると、結局あのホテルから持ち帰ってきたもやもやがぶり返してきて、ローはゆっくり眠れなかったのだった。頭の中をぐるぐると、気掛かりな正体不明の何かが巡っていて、一向に落ち着かない。そうこうしている内にみるみる夜が明けて、ついに寝ることも邪魔臭くなったローはとうとう、 起きておくという最後の手段を選んだのだった。

というわけでローは、寝不足な上に思考の巡りが悪くて、いま最高に鬱憤が溜まっているところだった。そんなこともつゆ知らず、おそらくクルー全員が自室の前に揃ったのだろう、静まり返った船内に、今度は呟くようなベポの声が響く。


「・・・キャ、キャプテンが、起こさなくても起きてる・・・・・・しかも着替えまで済んでる・・・・・・」


まるで天変地異の前触れでも目の当たりにしているかのようなその声色に、同意するかのようにごくりと唾を嚥下する音が重なる。わけの分からん緊迫感に、ローは、自船のクルーのこういうアホさ加減がそろそろ心配すべきレベルまできたかもしれない・などと思っていた。






「・・・・・・で、何で話がそうなるんだ・・・」


先程の一騒動を“シャンブルズ”で鎮火したローは、食堂でペンギンとともに、クルー達にレイリーと人間屋、さらにコーティングの話をしていた。はずなのだが。ベポの一言で話が急に逸れて、そのあまりの急展開さに目頭を押さえざるを得ない。


「だからっ!明日そのレイリーって奴にコーティングを頼むんだったら、もう遊びに行けるのは今日しかないでしょっ!?」


ローの目の前で熱弁を揮っているのは、オレンジ色のつなぎを着た熊だ。その愛らしい外見をフルに活用して、先程から、シャボンディパークに行きたい行きたいと駄々を捏ねているのだった。そのベポの後ろで、同じくかねてからシャボンディパークで遊びたがっていたクルー達が、 『いいぞベポー!もっとやれー!!』などと囃し立てており、ローにとっては煩い上に面倒この上ない。


「・・・何度も言ってるだろう、あそこは人攫い屋の出没率が高い。おれ達人間はまだいいとしても、ベポ、狙われるとしたらお前が一番危ないんだぞ。そんなところにわざわざこっちから出向いてやる必要もねェ」
「わ、分かってるけどっ!でもせっかくここまで来たんだから行きたいのー!!おれ攫われないように気を付けるから!」
「気を付けてても攫われるから危険なんだろうが。どんなレベルの輩が出てくるとも限らねェんだぞ」


堂々巡りになりそうなそのやり取りを見て、彼の腹心の部下ペンギンが、『まあまあ、』とローの肩に手を置いた。


「ベポの気持ちも分かるけど、船長の言い分も正しい。船長はベポが心配で心配でたまらないんだぞ」


ペンギンの言葉に、打たれ弱いベポはしゅんとなりそうなところをグッと堪えて、『で、でも〜〜!』と続けようとする。それをペンギンは、空いているもう片方の手で制した。ローは、こうしてペンギンが出てきたなら自分の出番はここまでで、あとは彼が勝手に丸く収めてくれるだろう・と、気を緩めてしまっていた。 その一瞬の隙に、ペンギンが、ローの肩に手を置いたまま彼の方に向き直る。そのペンギンの表情を見て、ローは、ペンギンが何故しゃしゃり出てきたかを察知し、ヒクリと顔を引き攣らせた。ペンギンの顔にはでかでかと、『おれも遊びに行きたい』と書かれてあるようだったのだ。


「まあでも、それだけ心配なんなら、船長が目付役で一緒に来れば全て解決する話ですよ」


反発する気力も根こそぎペンギンに持っていかれたローは、勝訴したと舞い上がるクルー達を尻目に、痛み始めた米神を押さえて『もう好きにしろ・・・』と答えるのがやっとだった。


***



一通り遊び倒して疲れたのか、お昼寝タイムに入ってしまいそうなベポを、ローは自分の能力でその辺の木の上に連れて上がった。帰らせても良かったのだが、引き続き遊んでいるクルー達を見たベポに『おれもまた後で遊びたい・・・』と寝ぼけ眼で泣きつかれ、ローは、 もうここまで来たらトコトンまで付き合ってやるか・と腹を括ったのだった。


「ホラ、ここで寝ろ。落ちんなよ」
「う〜、・・・ありがと、きゃぷて、ん・・・・・・」


相当眠かったのだろう、言い終わらないうちに眠りに就いたベポを見て、やれやれ・とローは嘆息する。心配の種が眠ってしまったことで、少し肩の荷が下りた気分だった。後ろ足2本で器用に歩いて喋ることもできる熊となれば、賞金稼ぎも人攫い屋も放っておくわけがなく。現にここシャボンディパークに来てから、 もう何度奇襲を掛けられたか分からない。いくら戦闘員とはいえ、まだ子どもの熊であるベポ。人間の思考回路はまだ理解しきれていないところがあるし、闘いぶりにも甘さが目立つ。ローは、そんなベポをずっとフォローしていたのだった。
それにしても・と、眼下でまだまだ元気にはしゃいでいる私服姿のクルー達に目をやる。あれだけ派手に遊んでいながら、自分やベポと一緒にいないだけで、今は奇襲の〔き〕の字も忘れたように影を潜めているのだから腹立たしい。まあ、雑魚を相手にしないで済むだけ手間は省けるが、何となく釈然としないローだった。

と、そこへ、ローたちからは少し離れた地上が、急にざわめき立った。何事かと視線を向けるロー。目を凝らしてみれば、小さくだが、嫌なシルエットが見つかった。


「お前ら!後方から天竜人が来てやがる!下手に動くんじゃねェぞ!!」
「っ!アイアイ!」


咄嗟にローは、地上のクルー達に声を掛ける。鋭くその気配を察知したペンギンが応え、クルーは皆動きを止めた。世界貴族である天竜人の前では、いかなる者も膝を地について頭を垂れ、動かずにいなければならない・というのは、ここシャボンディ諸島の暗黙の了解だ。 ローは、自分とベポが木の上にいて良かったと心底思っていた。ここであれば下手に奴らの目に触れることもないし、何より、馬鹿面を下げた天竜人などに膝をついてやる必要もない。

ゆっくりと、奴隷に車を引かせて、天竜人が現れた。あれだけ賑やかだったシャボンディパークも、この一角だけ今はしんと静まり返っている。どうやら来ているのは男の天竜人が一人だけらしい。何やらぺちゃくちゃと喋っているが、興味のないローにはその内容が一切分からなかった。

と、そこで、小さなシルエットが一つ、動いてしまった。天竜人に気を取られて手元がおろそかになった子どもが、うっかり自分の持っていたくまの風船を手放してしまい、子どもらしくも手をすり抜けるそれを追って咄嗟に立ち上がってしまったのだ。木の上で俯瞰しているローからは、全ての動きが良く見えた。
そんな子どもの動きを目敏く見つけ、怒り咎める天竜人。御付きの者からショットガンを受け取ると、その子どもを目がけて発砲した。あまりの短絡さと無謀さに、ローの眉根が自然と寄る。子どもの母親が、子を庇うように抱きこんだ。が、避けるまでは間に合わないのが明白だ。ローが地上のシャチに目配せをしようとした、 その瞬間―――

母親の腕の中のその子どもが、真っ直ぐに、ローを見上げた。生い茂る木の葉にローの姿は隠されていて、地上からその姿を見つけるのは玄人でも難しいはずだ。なのに、その子どもは、まるでローがそこにいるのを分かっているかのように真っ直ぐ見上げてきた。一瞬だが、二人の視線が絡み合う。

ローは、チッと舌打ちをして、その子どもから自分の視線を引き剥がした。そしてそのまま、シャチを見やる。シャチは、当然のようにローの視線を受け、次の瞬間には動き出していた。

この一連のやり取りは全て一瞬のうちの出来事で、ショットガンを放ったことで多少なりとも衝撃を受けている天竜人には、全く目にも留まっていなかった。天竜人が目を皿にして土煙りの向こうの様子を確認する頃には、赤い血で頭部と腹部をべったりと濡らした母親と子ども、そしてシャチの3つの“死体”が出来上がっていた。 それを見て満足したのだろう。その天竜人は、それだけですんなりとまた歩みを進め始めた。ゆっくりと通り過ぎてゆく天竜人を、何も知らない一般市民達は震える体を必死に抑え込んでやり過ごす。



ようやく天竜人とその一行の姿が見えなくなり、呪縛が解けたように人々が動き始めた。その中の一人の男が、倒れている母子に駆け寄るのが見えた。大方、父親といったところだろうか。
駆けてくる足音に反応してか、シャチがひょいと身を起こす。それに続き、急所を撃たれているはずの母子も、恐る恐るといった様子で起き上がる。父親らしき男と周囲の人間は、驚きが隠せないように目を剥いた。ローは事の顛末に特に興味はなかったが、自分が“そうさせた”こともあるため、 とりあえず木から下りて様子を見に行った。こんな騒ぎの後で、まだパーク内にあの天竜人がいるのだ。人攫い屋も今このタイミングでは襲ってこないだろうと踏んで、ベポは置き去りにした。


「あ、船長〜!」
「・・・無事なようだな」
「当然っスよ!ホラこのとおーり!」


シャチが指差した足元には、先程天竜人が発砲したそれであろう銃弾が全てめり込んでいた。それを確認したローは、天竜人の次に間髪入れず2億の首が現れてまたも騒然となる人々を丸無視し、クルー達の輪の方へ視線を投げる。その真ん中で、ペンギンが子どもの体に付いた血糊を拭ってやってるのが見えた。 父親も含め、親2人は涙を流して我が子の無事を喜んでいるようだ。

単純な話で、ローの目配せを受けたシャチは、身を固くして逃れる術のなかった母子を銃弾の届かないギリギリのところへ移動させると同時に、(ペンギンが)持ってきていた血糊(もとい輸血)パックを割いて3人の体にぶっかけることで、即席で死体を作り上げたのだった。しっかりと空気を読んだ母子が、 天竜人が去るまで身動きを取らなかったのも、上等な演技だったと言えるだろうか。

とにかく、自分の目の前でくだらない命の無駄遣いが起こらなかったことに満足したローは、後は勝手にしろと言わんばかりにベポの元に戻るべく踵を返した。



「あっ、待って!せんちょうさん!」


そんなローの背中に、子どもの声が掛かる。歩みを止めて振り返ってやれば、そのローの目をまた真っ直ぐに見つめる瞳と視線がぶつかった。その幼い少年を抱えている父と母は、息子が声を掛けたことで今しがたローの存在に気付いたらしく、驚き恐れるような目でローを見ている。対するローも、 その少年が自分を『船長さん』と呼んだことに、少なからず驚いていた。
幼い少年は、ローの歩みが止まったことに満足したのかローから視線を外し、舌足らずながら両親に力強く説明を始めた。


「あのね、僕聴こえたんだ!あの木の上に、あのせんちょうさんっていう人がいてね、あとくまさんもいるんだけど、くまさんは寝てるみたいでね!それでね!えっ・・・と、そう!あのね、僕が風船飛ばしちゃったときに、聴こえたんだ!せんちょうさんが、さっきのお兄ちゃんに、『行ってやれ』って言ってたの!」


静まり返った空間では、子どもの声は良く響く。その子どもの言うことに驚きを隠せなかったのは、何もその両親や周囲の人間だけではなかった。ハートの海賊団のクルーも、そしてロー自身も、信じられない気持でその少年を見ていた。
確かに、シャチに目配せをしてその母子の命を救わせるという意志決定をしたのは自分である。その目配せの直前に、真っ直ぐローを見上げたその少年に、薄々ながらローは、自分が木の上にいたことだけでなく、自分の意図が少年に読まれているのではないかとは感じていた。なので、 その子どもがローの采配を把握していたことは、それは驚きにも値するが、まだ予想の範囲内のことだ。がしかし、それだけではない。少年は、あの木の上にロー以外の存在がいることまで、しかもそれが熊で、眠っていることまで知っていた。ローが思い出せる限りでは、ベポは、 完全に少年からは死角の位置にいたにもかかわらず、だ。

あまりの展開に、ローをはじめとするハートの一味は呆気にとられていた。


「だからね、お母さん、僕たちを助けてくれたのは、本当はあのせんちょうさんなんだよ!」


その小さな少年の演説は、『ありがとう!せんちょうさん!』という言葉で締めくくられた。聴き入っていた周囲の人間は、少年の話した事実にワッと湧き上がり、暢気に拍手までしている。普段なら、このように担ぎ上げられることに慣れていないクルー達なので、一目散に撤退しているところだが、今はそれどころではない。 ローは、クルー達の輪の中にいる親子の方へと歩み寄った。


「おい、お前・・・」
「なあに?」


しゃがんで目を合わせてくれるでもなく、思いっきり見下す態で声を掛けられているのに、その少年はと言えば、死の外科医相手に物怖じせずにへらりと笑っている。気が気でないのは両親の方で、例えば母親は、いくら命の恩人といえども懸賞金2億の海賊、それを前にして腰を抜かす寸前だった。 ローは、あわよくばどういうわけか問いただしてやろうかと思っていたのだが、目の前の子どもの真っ直ぐな瞳を見れば見るほど、もうどうでもいいような気がしてきてしまった。しょうがないので母親の方を見やれば、ついに彼女は腰を抜かしてしまったのか、ぺたりと地面に座り込んでしまった。


「・・・服を汚して悪かったな。ただの血液だ、シミにはならねェだろう」


そう声を掛けたローに、母親は必死に首を横に振って応えた。それを見るでもなく踵を返しかけたローに、今度は父親の方から声が上がる。


「あの!本当に、何とお礼を申し上げればよいのやら・・・!二人の命をお助けくださって、本当にありがとうございます・・・!!!」
「ただの気まぐれだ・・・」
「そ、それでも!本当に、助かりました!」


父親の礼を言いたい気持ちが分からないわけでもないが、そうされたくてやったつもりではないので、ローにとっては居心地悪いことこの上ない。背を向けたまま雑に答えながら、いい加減ベポのところへ戻りたくなってきたローだったが、気を利かせたつもりか、クルーの一人がベポの眠る木の方へ駆けてゆくのが見えて、 心中で舌打ちをした。そんなローの様子に気付くはずもなく、父親は続ける。それが、ローの中のとある思考回路を繋げることになるとは知らずに。


「あの・・・、もう御察しとは思いますが、この子は生まれつき見聞色の覇気を強く持っておりまして。我々は微塵も気付けなかったのですが、まさか海賊の貴方が―――・・・」


***



シャボンディパークから戻ったその足でそのまま船長室に籠ったきり、夕食にも姿を見せなかったローに、ベポは食事を摂ってもらうべくお膳を持って船長室まで来ていた。中の様子を窺うと、静かだが起きている気配がしたので、ベポはノックをして返事を待たずに戸を開けた。


「キャプテン、ご飯持って来たよっ、て、・・・あらら」


と、そこへ飛び込んできた、デスクの上から床からベッドの上や挙句椅子の上まで部屋中に大小様々な本が散乱しているその風景に、ベポは絶句してしまう。そんな彼を余所に、その部屋の主であるローは涼しい顔をして部屋の真ん中で本のページを捲っていた。これでは、せっかく持ってきたお膳すら置く場所がない。 ベポは一旦廊下にお膳を下ろし、扉の辺りからちょっとずつ本を片し始める。といっても、本棚への片付け方はローなりのこだわりがあることをベポは知っているため、彼としては、本をまとめて積み重ね、足の踏み場を作ることぐらいしかできないのだが。


「ねえ、キャプテン何読んでるの?」
「・・・・・・・・・ああ、」


せっせと手元を動かしながら、ベポは大好きな船長に問いかける。が、一拍も二拍も置いてから、全く返事になっていない言葉が帰ってきた。本を読んでいるときのローはいつもこうで、よっぽどのことが起こらない限り誰にも目をくれないのは知っているが、それでもベポは何となく寂しい気持ちになるのだった。 わがままを聞き入れてシャボンディパークに連れて行ってもらったお礼を言いたかったのだが、今はやめて置いた方がよさそうだと判断したベポは、引き続き本をまとめて積み重ねる作業に勤しむことにした。

ようやくローの近くに行けるぐらいまでには本を隅に寄せられて、ベポはちょっとした達成感を覚えながら廊下のお膳を持ち込んだ。ローの隣まで持っていき、『冷めても美味しいから食べてね』と、聞こえているかどうかは分からないが声を掛ける。返事はないが、めげずにベポはそっとローの後ろに回り込んだ。 そこからローの手元を覗き込み、本の内容を見ようとする。が。

―――難しくて分かんない・・・・・・

今度こそしゅんとなり、ベポは静かにローの部屋を後にしたのだった。


***



ローが目当ての情報を全て再読し終わったのは、草木も眠る頃だった。

今日、いや、もう昨日と言った方が正しいだろうか、昼間シャボンディパークで命を救った少年は、【見聞色の覇気】を生まれ持っていた。それを耳にした途端、ずっと気がかりだった何かに繋がった気がして、ローは助けた親子や遊び足りないクルー達の相手もそこそこに、早々に切り上げて船へ戻ってきたのだ。 それからずっと自室に籠り、自分が持っているだけの【覇気】に関する情報をひたすらかき集めていた。

そして今、持ちうる限りの情報を以って考察した結果、ひとつの繋がりを見つけるに至ったのだった。

得心したローは、空腹感を覚えながらも、そういえば昨晩というか一昨日の晩からのこの気掛かりのせいで眠っていなかったことを思い出し、道理で眠いわけだ・と道理なことをふわりと思いながら、一気に眠りに落ちていった。