Day.2  The Rain (Your Side)



携帯のアラームが鳴って、もう起きる時間だと思った。でもまだ眠い、からもうちょっと寝てようかなぁ・・・ていうか今日何すんだっけ、え?ここ沖縄じゃんね・・・えと、確か・・・・・・あ! 忘れるとこだった、今日は沖縄二日目、プライベートアイランドじゃん!一気にエンジンがかかって、布団を撥ねのけて飛び起きる。周りを見渡すと、みんなまだ寝ていた。こらこらそんなんじゃエンジョイできないよ諸君! (ていうかひとりじゃ寂しいから誰か起きて!) とりあえず部屋の障子を開けて太陽カモン!のはずが、・・・何この曇天?何だかものすごーく雲行きが怪しい。雨降ったりなんかしないよね・・・?

朝ご飯はバイキング形式で、沖縄名物(?)のゴーヤチャンプルーとかご飯とか味噌汁とか漬物とか、色々あって美味しかった。あと驚いたのは、従業員さんも一緒に食べてたこと。(こんな旅館あり?) 何でもここの従業員さんはみんな住み込みで働いてるらしく、従業員さん同士やお客さん(って言っても今日は私たち一家しかいないんだけど)とのコミュニケーションの場として、朝食は毎朝一緒らしい。何だか大家族みたい!



***



朝食を終えた私たちは身支度を整えて玄関に集合。それから柿本さんの指示に従って、旅館に近くの船着き場で船に乗り込み(ちなみに運転手は柿本さんじゃなくて女将さんのご主人だった)、移動すること十分。やってきましたプライベートアイランド! 天気はあい変わらず曇りのままで気がかりだけど、その砂浜の白さや海の青さや草木の鮮やかさには完敗!!写真でしか見たことのなかった風景に感動しながらポケーッとしていると、父さんに『、話聞いてないと死ぬぞ』って言われてびっくりした。(そ、そんな脅さなくてもいいじゃん!)

まず船を運転してくれた金城さんと一緒に島を一周して、珍しい虫(とあるのさなぎって全身金色なの!幸運を招く蝶って言われてるんだって!)や南国特有の花、 あと、ヤドカリとか浅瀬にいる熱帯魚のことまで、何から何までいっぱい紹介してもらった。(おじさんすごい物知り!) それから船着き場(という名の砂浜)に戻ると、柿本さんが浜辺に色んな物を出していた。釣竿やシュノーケル、ちょっとしたボートまである。


「今から自由時間にしますけど、あまり僕らの目の届かない所には行かないで下さい。万が一何か起こった場合の責任は取りかねますから」


柿本さんはそう言ったあと、『釣りがしたい人は僕に、海の方に出てボートやジェットスキーがしたい人は金城さんに言って下さい』と説明した。





私は妹と一通り海で遊んだあと(小さくてキレイな魚が間近で見れてすっごい感動した!)、母さんが『ゆっくり見れば面白いわよ』って言ったから島をちょこっと探索してくることにした。さっき通った道は一本道だったから迷子の心配もない。

ひとりでその獣道に踏み込むと、辺りはやけに静かで穏やかだった。(時々草むらから蜂とか蝶とかが飛び出してきてビックリするけど笑) 花も土も風も虫もみんな自由で、ずっとここにいたら私までもが何もかもから自由になれる気がする。 ゆっくり歩いて、目に付いた物をじっくりと見る。さっき金城さんと一周した時には気付かなかった物がたくさんあって図らずもウキウキしてしまって、小さな島の奥地を何度も行ったりきたりした。

そうこうしている内に結構時間がたったように思えて(だって曇りだから朝か昼かもわかんない)、それにお腹も空いてきた。そろそろみんなの所に戻ろうかな、お昼ご飯は女将さんのお弁当らしいしな!なんて思いながら一歩・二歩と踏み出したとき、 後ろでポタッていう音が聞こえた。何だろう?と思って振り返ろうとしたら、


ゴロゴロゴロゴロ・・・・・・


上空の厚そうな雲の中で、私の大嫌いな音が鳴った。身体が固まる。(ちょっと待って、コレはきっと早くみんなの所に帰ったほうが良さそうな感じがバリバリするんだけど何だか、・・・いやいや!身体が動かない・・・!助けて!!) ポタッていう音がどんどん増えて、私の頭や顔にも冷たい物がいっぱい降ってきて、しかもそれは目に見えて強くなっていく。(嫌な予感的中!) もう一度あの音が鳴る前に、早く動かなきゃいけない。さっきのゆったりした気持ちは何処へやら、 私は焦って足を動かそうとした。(なのに!神様のいじわる!) 曇り空が一瞬明るく光って、私はその場にへたり込んでしまった。

せっかく沖縄まで来てなんでこんな雷なんかに遭わなきゃいけないの、私が何悪い事したの、ていうか母さんは?父さんは?私がかみなりだめなの知ってるでしょ早く来て、だれでもいいから、さっきの蝶でもいいから!(幸運なんでしょ!?) お腹も空いてきたし、涙出そうだし、だれもいないし、雨冷たいし、てか、かみなり煩いよあんた!何コレ?なんで、私はバカンスしに来ただけなんだって、てかあーもうまた光った・・・!無理無理鳴る!耳塞いでても聞こえるんだからね! 私の聞こえないところで鳴ってよねぇ誰か!もう死にそう、私の人生は沖縄で終わったね、くそう!なにコレもうシリメツレツじゃん、柿本さんでも金城さんでもいいから!だれかねぇ助けて・・・!!

その時一際大きな音が鳴って、もうダメだと思って地面に倒れこむのを覚悟したら全身の力が抜けた。ゆっくり傾いてく体が妙に心地よくて、よく分からないけど末期だなと思って地面の感触を待った。それなのに一向に地面まで辿り着く気配がなくて、 このままどこまでも落ちていくんじゃないかって不安になってバッて目を開けたら、変に傾いた地面が見えた。


「大丈夫?」


そう言われてやっと自分の背後に誰かいるのに気付いた。急いで身体を起こして(その時支えられてたことに気付いた)、振り返る。柿本さんがいた。(神だ!)


「お父さんが、」


柿本さんがそう言いかけた時、またあの大きな音が鳴った。私はうわー!ってなってビックリして焦って取り敢えずしがみつける物を探そうとしてたら、柿本さんが手を差し出してくれた。(神の手だ!) 少し恥ずかしかったけどそんなこと言ってる場合でもなかったから、ご好意に甘えてその腕にしっかりしがみつかせてもらって、もう一度ぎゅっと目を閉じる。怖かったけど、柿本さんがいると思えばすごく楽だった。


「雨、もうすぐ止むから。戻るよ、立てる?」


柿本さんはそう言うものの、ちょっと立てれそうな雰囲気はない。力が入らない首を横に振ると、柿本さんは立ち上がろうとしていた腰を下ろした。





暫くすると本当に雨が止んで(柿本さんすごい)、私はやっとみんなの所に戻ることができた。父さんは柿本さんに何度も頭を下げていた。さっきの雨が嘘のようにすっかり晴れた空の下、みんなで食べた女将さんのお弁当と、 父さんが午前いっぱい釣竿を握り締めて釣った一匹の魚は、やっぱり美味しかった。



***



午後も太陽の下で思いっきり遊んだあと、帰りの船の上で、私は柿本さんにもう一度お礼を言った。そしたら柿本さんは、うん・って短く返事をしただけだった。 きっと柿本さんはちょっとコミュニケーションが苦手なんだろうな。でも今日は優しいんだってことが発覚したし、きっと思うよりずっといい人なんだろうな。

明日は柿本さん、どんな一面を見せてくれるのかな!




明日の私 / 今日の彼