Day.1  The Arrival (Your Side)



晴れわたる空、むせかえるような甘い空気、極彩色の木々花々、ゆったり流れる風、サン・シャインズ・オン・マイ・ウェイ!そう、私は今、沖縄に来ています! これで隣にいるのが家族じゃなくて彼氏だったら最高なんだけど、そんなもの居ないし連れてきてもらっといてそんな文句は言えません。ていうか別にいい!こんな鮮やかな所が日本にもあったんだね!今日から私は五日間ここで過ごすんだ! なんだか素敵なことが起こりそうな予感☆なんてドキドキしながらポーッと突っ立ってると、お父さんが『置いてくぞお前!バス来てるぞ!』って遠くから叫んだ。(何でそんな遠くにいるの!?早いよ!) 私はあわててスーツケースの取っ手を掴んで走った。風が気持ちいい。

バス専用駐車場には、たくさんの大型バスがとまっていた。○○観光、××バス、中には△△ホテルなんて書いてあるバスもある。どれに乗るのかなーなんて楽しみに思いながらみんなのあとについていったら・・・・・・・・・何ですかコレは。 や、バスだっていうのは分かるけど、なんか小さくない?(しかもそのバスには旅館首里天と書かれてある。りょ、旅館・・・?)


「ちょっとお父さん、これに乗るの?旅館?ホテルじゃないの?」
「バカ、そんな金がウチのどこにある」


ああそうでした。この続く不況の打撃をもれなく受けている家は普通に裕福じゃない。沖縄に来れただけで夢のようなのに(お父さんが『沖縄行くぞ』って言った時は雨どころか槍が降るかと思ったよ)、その上ホテルでバカンスなんて虫のよすぎる話だってわけですか。


「ホラ、も挨拶しなさい。」


お母さんにそう言われて、半眼になっていた私は我に返った。バスの傍らに一人の男の人が立っている。


「案内役兼ドライバーの柿本です、よろしく」
「あ、えと、こちらこそよろしくお願いします」


柿本と名乗ったその人は、私のためにもう一度挨拶してくれたようだった。どうやら五日間この人が案内してくれるらしい。背は高め、黒い髪と目とメガネに、少し白い肌。沖縄の太陽に見放されたのかな、変な人。(でも声は低くて好きかも!)


「じゃあまず旅館までお連れします」


私たちみんながバスに乗り込んだのを確認して、柿本さんはバスのエンジンをかけた。



***



「めんそーれ、女将の金城でございます。長時間のご移動、お疲れでしょう。本日はごゆっくりおくつろぎくださいませ」


女将さんは見るからに人がよさそうな顔をした、着物のよく似合うキレイな人。(着物っていっても民族衣装っぽかった。なんて言うんだろ?) 旅館は空港からそう遠くなく、その女将さんに似合う立派なものだった。 今日は私たちしか予約してなかったみたいで、旅館の中はがらんとしていて静か。従業員さんも多くない様子。そのせいか、ずいぶん広く感じた。(夜一人で歩くのはちょっと怖いかも!もしかしていわくつきとかじゃないよね・・・)





夕飯まではまだ時間があるし、部屋でいても何もすることがなくてつまらないから、暗くならないうちに私は旅館探検に乗り出した。五歳下の妹はせっかく私が声をかけてあげたのに、シレッとして『お姉ちゃん一人で行ってくれば?』とかこぼした(私より年下のくせに!)からほっといてきてやった。

私たちがこれから四泊する部屋のスライディング・ペーパー・ドアを開けて、廊下に出る。初めは玄関側の方から攻めようかなと思ったけど、ここは裏をかいて逆から攻めてやろう! と意気込んで、廊下を来た側とは逆向きに歩いていった。廊下の左手には宿泊用の部屋が続いて(やっぱり私たち以外のお客さんはいない)、右手にはガラス戸の向こうで一面の緑が太陽の光を浴びて眩しそうにしている。

しばらくその風景が続いて、ふと、長い廊下は左折した。今度は両側が土壁と襖になって、廊下は進むにつれて薄暗くなっている。引き返そうかな、もう人気がないのは十分確認できたし、同じような構造ばっかりで面白くない。 それに静かで暗くて何だか・・・・・・(ちょっと怖いかも!) そっと立ち止まると静けさが引き立ってそれ以上動けなくなりそうだから、私はせーので振り返って、俯いたまま来た廊下を小走りに戻っていこうとした。

そしたらいきなり右側の襖がガラッて開いてなんか黒くてでかいのが出てきて(ひい!で、出た・・・!)、ちょうど勢いに乗っていた私は止まることができなくて、見事その何かとぶつかった。(痛い!ていうかぶつかった・・・!おばけじゃない・・・!?) もうわけが分からないままとりあえずぶつかったものと距離をとって(構えて)ふとその顔を見れば、そこに見たことのある黒メガネがのっていた。


「、・・・・・・」
「か、柿本さん・・・」


何かはおばけじゃなくて柿本さんだった。(よかった・・・) 少しほっとしてほっぺたが緩んだとき、柿本さんが『何してんの?』って低い無愛想な声で言うもんだから、私のほっぺたはまた変に引き締まった。(怒ってる?)(この年で探検してたなんて言えない!) 私が普段使わない脳みそを酷使して何とか『えあ、あの、トイレの場所が分からなくて・・・』と言うと、柿本さんは一つ瞬きをして、『じゃあついて来て』と言った。(ごまかせた!?)

来た廊下を柿本さんと二人で戻る。今度は左手になったガラス戸の向こうの赤みを帯び始めた空を見ながら歩いていると、柿本さんがまたあの低い声を発した。


「あっち、従業員が使う部屋だから」
「(そうなんだ!) あ、はい、すいません・・・」
「うん」


トイレに送ってもらう(なんか変な気分・・・)までの間、柿本さんと話したのはそれだけだった。トイレに着いて、私が『ありがとうございました』と言うと、柿本さんはメガネを指でクイッてしながら『ん、・・・夕食、七時からそこ曲がった所であるから』と、 何やらカチャカチャ準備の音がする方を向いて言って、そのままそっちに消えていった。私がまた変な所に行くといけないから教えてくれたのかなと思うと、何だか少し嬉しいような悲しいような変な気持ちがした。でも、前言(?)撤回。 柿本さんは変な人だけど、何気に優しい人。



***



無事に夕食を終えて、お風呂にも入って(露天風呂すごい素敵だった!キラキラの夜景が見えるの!)ちょっと一息つこうかなという時に、女将さんが直々に来てくださって、明日の予定を教えてくれた。 明日は島で探索とか釣りとかジェットスキーとかができるらしい!(なんでもプライベートビーチならぬプライベートアイランドがあるんだって!ちょっとお父さんすごいじゃんこの旅館!!) やっぱり素敵なことが起こりそうな予感☆




明日の私 / 今日の彼