君の声なんて



見回りがかったるくて仕方がない上に空が青くて俺を誘惑するから、今日は土方さんの部屋の上(つまりは屋根の上)でサボることにした。今日も、サボることにした。灯台下暗し、ここでサボっててバレたことはない。下じゃなくて上だけど(ざまァみやがれ土方)。 マヨラーに邪魔されたくないときは、ここに来るに限る。ちょうど木陰になっているお気に入りの場所で、仰向けに寝転がった。おちょくる相手も必要もないから、今日はアイマスクを持ってきていない(正直アレは圧迫感があって快適じゃない)。 目を閉じると、視界がうっすらと赤く染まった。

でも、寝ようと思ってやって来たのに、目を閉じていてもどういうわけか今日は眠れない。もう一度目を開いて、ゴロンと寝返りをうってみた。瓦からの照り返しが眩しい。

そういやさんは今何やってんのかねィ・なんて、そんな考えがよぎった。、俺の隊専属の女中だ。 元々八番隊でやってたのを、いい女だったから強制的に引っこ抜いてきた。でも、引っこ抜いてくるんじゃなかったと今更思う。なんなんだ彼女は。俺のペースを尽く乱しやがる。悪戯を仕掛けても、知ってか知らずかへらっと笑ってかわすし。 俺が見つからないようにサボっても、偶然か必然か探している訳でもないのに俺を見つけるし。怪我して帰った日にゃボロボロ泣くし(泣き顔は好きだが彼女のは見るに堪えねェ)。



「あれ?沖田さんだ」


さんのことを考えてたら背中の方からさんの声がして、俺は心臓が飛び出るかと思うくらい驚いた。とっさに目を閉じる。得意なはずの狸寝入り。なのに、変に緊張して心臓がうるさい。なんでこんな近くで声がするんだ(ここは屋根の上なのに)、なんで俺の居場所がわかるんだ(土方にもばれないのに)、 なんで俺は狸寝入りしてるんだ(やましいこともないのに)。


「寝てるのかなぁ・・・おーい、沖田さーん」


そう言いながら、さんが俺の方に近づいてくるのが分かる。・・・待て、来ないでくだせェ。それ以上近づかれたら狸寝入りがばれちまうそんな気がする。ていうかさん、アンタどうやってここに登ったんだ。ここに来るには木に登るしか手段がないはず。梯子でも持って来たのか?何のために?
視界が少し暗くなって、さんが俺の顔を覗き込んでいるんだろうと思った。


「・・・・・・気持ち良さそうに寝てるなぁ、これじゃ屋根のお掃除できないや」


『土方さんに頼まれてるんだけど・・・まあいっか』
という声が続いて、なんでさんがここにいるのかが分かった。土方の野郎、さんに危ない屋根の掃除を任せるたァどういうつもりでィ。屋根から落ちて怪我でもしたらテメーのせいだぜィ土方。それこそ切腹なんてもんじゃすまねェ。 しかもさんは俺んとこの女中だ。その彼女にテメーが掃除言いつけるなんざ百億光年早ェんだよ覚えてやがれ後でぶっ殺す。


「それにしてもキレイな顔・・・」


さんが俺の横に座り込んだ気配がした。キレイって何ですかィそりゃあ、アンタの方が何十倍もキレイでさァ(なんて今言えないのが腹立たしい)。あー・・・くっそ、心臓がうるさい。落ちて怪我してもいけないし狸寝入りがバレてもいただけないから、ていうかそれ以前に俺が居た堪れないから、 早いとこ立ち去ってほしいんですがねィさん。いや、アンタが嫌いなわけじゃないんですぜ。むしろ、





「・・・すき、だなぁ」





心の中で呟いたはずの言葉が小さく、本当に小さく聴こえて、俺は一瞬しまったと思った。でも、声色が俺のじゃない。俺のじゃなくて、さんの、


「っと、そうだ洗濯物干さなくちゃ」


そこで思考回路が固まった俺を残して、さんはそそくさと立ち上がり、去っていった。最後の最後に、とんでもねェ爆弾落として。そのおかげで俺の頭の中はめちゃくちゃだ。心臓がこれ見よがしにでっかい音たててやがる。 さんの気配が完全に遠ざかったのを確認して仰向けに直り、一つ、盛大にため息をついた。

ちきしょう、何だってんだあの人は。俺の心臓ぶっ壊すために生まれて来たのかってくらい危ないお人だ。だーもう!静まりやがれしんぞう鬱陶しいんでィ!いいか心臓、さっきのは気のせいっつーか俺の心の声。だから俺は何も聞いてねェしお前も何も聞いてねェ。ったく、こんなことで浮かれてどうすんでィ・・・・・・ え?いや、この顔がにやけてんのはアレでさァ、ついさっき土方の断末魔を想像したからですぜたぶん。



(あーあ、なんでアンタみたいな人に惚れちまったんでィ)
知らん振り