曇ランデブー


女心と秋の空はどうとかって言うけど、ちなみに今は秋だけど、全然変わらないじゃんうそつき。おかげで私の心も憂鬱なままで変わらないじゃんこ「・・・なにしてんの、のやろ。 しとしと降ってる雨、最初は残暑を追い払ってくれるからいいなーと思えたんだけど、ここまで延々と降られると堪ったもんじゃない。雨は恵みだから憎くないよ。でも、低気圧は私の頭の中をぐるぐるかき混ぜるからキライ。偏頭痛ずきずき、前後不覚ふらふら、意識混濁でおやすみなさい、って。 ああもう「(無視・・・・・・)」ほんとにブルーですよ、ブルー。真夏の青空みたいなブルーならまだ救いがいがあるけど、これ何色さ、なんかどす黒いブルー。どこか哀しい色。ああ、藍色っていうんだったかな。

そういえば、でも、藍色ってなんだか懐かしい感じがする。どこだったかな、なんかどこかで、よく見てた気がするん、帰るよ」だけど何だったっけな。思い出そうとすればするほどしとしとしとしと雨の音が気になって、また私の頭の中はぐるぐるぐるぐる。 ああもう、うっとうしいな。よく飽きずに降ってるな。ていうかもうお願いだから止んでよ「・・・・・・寝てるの」ね。そんなにずーっと雨降らせてたら疲れるでしょ雲さん。そのうち水っ気がなくなってしわしわのおじいちゃんになるよ雲さん。そしたら風に飛ばされて知らない所に行っちゃうよ、 行っちゃえ、そうだ「(あー・・・めんどくなってきた)」よ行っちゃえばいいじゃん。




あれ、なんか話ずれてる、なんだっけ、何考えてたんだっけな。たしか雨がうっとうしくて、うっとうしくて、うっとうし・・・・・・あれ、それ以外のこと考えてたっけな。それしか覚えてないやもううっとうしいな。うっとうしいっていう言葉自体なんかうっとうしいよね。言いにくいっていうか、 言葉にしただけで生気が吸い取られるようなイライラするような。漢字もなにアレ、書けっこないってあんなうっとうしいの。あー、そういうの「(あ、今ぴくってなった)」を鬱陶しいっていうのか。いやあ漢字ってうまくできてるなぁ。 だって見た目だけで意味が分かるよ、オーラが出てるよどんよりしてるのが。

私もオーラ出そうかな、ていうかもう出てるんじゃないかな。え、もしかして私って漢字なみにすごい?・・・・・・何だよそれ、漢字なみにすごいってなんだよおかしいよさん。しっかりしてー、しっかりして私。雨が降ってるからって低気圧だからって負けてちゃだめよ私。だってほらいい加減帰らないとさ、外も暗くなってますますブルーになるしさ、見回りの先生も来ちゃうしさ、お母さんも心配す、・・・それはなさそうだけど違うそうじゃなくて、ほら帰ろ、帰ろうよー。 帰りた「(・・・て、いうか)」いよー、でもだるいよー、誰か連れてかえ 、」




机に伏せってる私の肩を誰かがポンってして、それと同時に大好きな声がして、結局びっくりして顔を上げたら、目の前に見なれた大好きな顔があってまたびっくりした。ちくさだ。どうしたのとか、何かあったとか、そんな感じのことを言おうと思うんだけど、こんなときにかぎってぐるぐるぐ、る。 あれ、なんかどこかで見た色。


「帰るよ」


ちくさは、机に引っ掛けてあった私の鞄をひょいと持ち上げて(中身いっぱいなのに!)、ひとりさっさと教室から出て行こうとする。待っててくれたのかな、ていうか今日は六道君と何か用事があるから一緒に帰れないんじゃなかったっ「・・・けな、あ、待って!

小走りでちくさに近づくと、ちくさがこっちを向いて、ちくさの顔に雨雲に遮られて息も絶え絶えの光があたって、その目がまた藍色に染まった。どこかで見た色。いつも見てた色。濡羽色を光で透かしたときに見える、優しい、愛しい色。




あ、雨が止んだ。




(低気圧に弱い君が心配だった、なんて、言わない)