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「あー無理！こんなのできっこないって！解けない！解ナシ！」 「解がないわけねェだろィ、こんな高校生のしかもバカ用の問題集で」 「だってわかんないんだもん、ていうか今バカって言った？」 「この俺が教えてやってんのにわかんねぇのか、救いようのないバカだねィ」 「・・・！」 夏休みの数学の宿題が最初から最後までからっきしわからなくてこのままじゃ夏休みが終わっても宿題が終わらなさそうだから総悟に泣きついたら、いじわるなコイツはわからせるどころかもっとゴチャゴチャした説明で結局余計に訳がわからなくなった。くそう、泣きつく相手を間違った。こんなことなら新八君にしときゃよかったかな。 彼なら親切に教えてくれそうだけど・・・あ、でも彼もバカだったそう言えば。 「余計なこと考えてねェで、さっさと解きやがれ」 「それができたら余計なことなんか考えませんー」 「さいですかシンセイのバカ、真正と真性、どっちがいーんでィ？」 「なにいってるのいみわかんないーうちゅうじんがいるー」 「へェ、今頃気づいたのかィ。さすがだなバカ」 総悟がバカバカ言うから、もうまんざらバカでも悪くない気がしてきた。っていうのはもちろん総悟の言うことが正しいと思い始めたわけじゃなくて、ぐだぐだ言いながらもやっぱり必死で解こうとはしてるんだけど、全く全然解ける気がしない。総悟のアドバイスを蹴っ飛ばして考えても、１００５歩ぐらい譲って加味して考えても、 無理、解けない。あーあ泣きそうだ、授業サボってたわけじゃないんだよ。テストもそんなに点数悪くなかったんだよ（みんな悪くなかったけどね）。総悟よりもいっぱい勉強してる自信はあるんだよ。なのに、あーあ、ほんと泣きそうだ。 そんな私をよそに、総悟くんはまさに私の目の前でヘラヘラ笑いながら漫画を読んでいる。もちろん彼は宿題をとっくの昔に終わらせている。もうすぐ実力テストがやってくる。夏休みももう終わるってのに、この有様、バカな私。泣くぞ総悟のバカ。新手の放置プレイですか泣いちゃうぞ。 君の彼女だぞ、泣かせてもいいのか貴様それでも男か！ 「・・・・・・逆から考えるんでィ、バカ。yが解だろィ？yの値が欲しいなら、この式にxの値代入するしかねェの。xの値が欲しいなら、問題文のここの部分から方程式立てて解くしかねェの。わかったかバカ」 漫画から目を離さずに、ページをめくる手も止めずに、総悟は静かに神の啓示をのたもうた。あまりに急に言うもんだから私は一瞬呆気にとられたけど、それでも私が理解できるほど彼の言ったことは平易で、私はこのチャンスを逃すまいと必死で彼の言ったとおりに考えてみた。したら・・・ 「・・・うわ、えと、できちゃった・・・・・・」 「やっとかィ」 「すごい総悟やった解けたー！見てこれ！解けた！」 「知ってらァ、早く続きやりなせェ」 「うっわー次の問題も分かるかも！ちょ、ちょっと待って総悟黙っててねやってみるから！」 「あんたが黙れバカ」 総悟は本当にすごい奴だと思ってたけど、もっとそう思った。同じページに載ってた問題は、総悟がつぶやいたやり方でほとんど解けた。ちょっと難しいのもあったけど、一番初めに説いた問題の流れを見ながら考えたら出来ちゃった。なんだこれ、さっきまでの苦悩の時間はどこへ行った！一気に１セクション解き抜いて、 総悟が読んでる漫画のその上にバサッと叩きつけた。総悟は邪魔をされて、少しだけ眉間にしわを寄せたけど、そんなの構っちゃいられない。早く総悟に見てほしかった。 「総悟、丸付けして！」 「はァ？」 「いいから！」 そう言うと、総悟は私の解答にさっと目を通して、一言、『目、瞑ってろィ』と言った。私は意味がわからなかったけど、解けたことが嬉しくてあんまり深く考えずに素直に目を瞑ることにした。 「できたぜィ」 しばらくして総悟がそう言う声がして、私はそっと目を開けた。使い過ぎですぐにピントの合わない目を必死で凝らすと、そこに見えたのは、青。 「え、なんで、ちょっと何で青丸なの！？マルなら答え合ってるんじゃん赤丸は！？」 「何でもへちまもねェじゃねェか」 「へちまもないけど青もないよ！頑張って解いたのにー！」 「バカ言え、俺のヒントがなきゃ解けなかっただろィ？」 「う・・・・・・」 「これでも俺がマルやってんでィ、感謝ぐらいしやがれ。１０日後にもいっかい自力で解けりゃ赤マルやらァ」 お得意のヤラシイ笑みを浮かべながら総悟は言った。私はどうも腑に落ちなかったけど、こうなったら総悟を見返してやんなきゃ気がすまない。総悟みたいに飄々とした青丸を睨みつけたら、それがひとつひとつよく見れば丁寧につけられていることが分かって、不覚にもキュンとした。 不覚だったのがなお悔しいから、急いで次のページを開ける。総悟は相変わらず目の前でヘラヘラ笑っていた。 あれ、もしかしてこの問題も解けるんじゃ・・・ （１０日後ちゃんと解けたら、チューでもお見舞いしてやらァ、赤い丸になるぐれェの）
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