なんていうか、懐かしいってのが一番しっくりくる気がする。小さいとき道場の裏で育てた朝顔みたいな、昔よく行った川原にぽつんと咲いてた百合みたいな、以前姉の墓前に奉げた菫みたいな、そんな懐かしさ。だから見るたびにいろいろ思い出して苦しくなるくせに、見ていたくなる。 そんな彼女を見つけたのは、そういえば夏の盛りだった。さらにそういえば、姉に少し似ている。シスコンになった自覚はない。

そろそろふたご座流星群がやってくる時期かねェ。なんて、近藤さんが教えてくれたことをまた懐かしく思い出して、今晩あたり、ちょっと時期は早いけど屋根に登って夜空を眺めてみようと思った。星に願いをなんて、そんな甘ったれたことは考えない。願いなら自分で叶えまさァ。何がしたいかというと、誓い。 誓いたァ格好良すぎるか。じゃあ宣言。彼女は俺のモンだって星にも教えとかねェと、奴等いつどこで彼女を誘惑するか知れねェや。

まあ確実に口説けるとして、それからどうするか。とりあえずやることやって・・・・・・あ、結婚とかもすんのかね。そろそろ考えろって近藤さんも言ってるなァ。それはそれで面白そうだ。ま、そんなこと今考えても仕方がないのは分かってる。でも何かと仕方ないのが人間ってもんだろィ。 俺が仕事さぼるのも仕方ないんだからいちいち煩く言うなってんだ土方の野郎。ああ、嫌なヤツのこと思い出しちまった。

暇さえあれば報告書なんかそっちのけで彼女のことを考えてしまうあたり、相当キてるなと自分でも思う。考えるんじゃなくて、考えてしまうあたり、特に。そうなりゃ文字なんか書いてられないから、最近の報告書はだいたいナメクジが這った跡みたいな線ばっかりで埋め尽くされている。 時々、どうやって彼女と接触するか計画立てた痕もある。そんなものお上に見せるわけにはいかないから全部自室のゴミ箱に突っ込んであるけど、ゴミ箱がそれでいっぱいになって、それ専用の入れ物みたいになっている。もういっそこれを彼女に渡そうかねィ。ラブレターです、とか何とか言って。バカか俺は。

そうさなァ・・・・・・仕事サボって口説いてやることやって結婚したら、家でも建ててまた仕事サボって彼女のこと考えてしまいながらナメクジが這った跡みたいな線でも引こうかねィ。


Letters
(ああしまった、また報告書が一枚・・・・・・)
- 080730 拍手御礼