やっぱりあれはどこがいい?キャナダとかいう場所がいいとは聞くが、実際得体も知れねぇよそんなカタカナの場所なんざ。やっと、やっと叶ったんだ、慎重に、ちゃんとやらねぇと。

そんな俺の心配をよそに、あいつはさっきから鼻歌を歌いながら晩飯を作ってる。神楽や新八はいない。下の階にはババアもいない。下の階なんて、もうねぇんだ。今ここは平屋の居間で、いるのは俺とあいつだけ。ああもうなんてこった信じらんねぇ!ついさっきまで、おれはひとりだったのに。

やっぱり最近のトレンドじゃキャナダがいいらしい。あいつもそれがいい的なことを言ってた気がする多分。確かじゃないから聞いとくか。そう思ってあいつのほうを向いたけど、うまく言葉が出てこない。あいつは俺に無防備に背を向けて、白いうなじを揺らしながら晩飯を作ってる。

あ、やべぇ。そう思ったときには遅かった。当たり前だ、二人っきりで、無防備で、ムラムラこないわけがない。俺だって男なわけだ。頭の中でそうやって必死に言い訳しながら、体はそそくさとあいつを担ぎあげて、『ちょっ、危ないじゃない包丁!私包丁持ってんのよ!?』とか何とか言ってるあいつから包丁を取り上げて、 口をふさいで、押し倒して、大人しくさせて。そうだ、これだ。

キャナダなんて知らねぇ。そもそもそんな新婚旅行に行く金はねぇ。今ここがどこだかなんて、もう関係ねぇ。ついさっきまで俺はひとりだった。何も無かった。何か足りなかった。それでも、生きてきてよかったと思ったんだ、今さっき。

『何すんの?』なんて野暮なこと聞くな、分かってるくせに。鍋の火は消してきたから心配するな。大丈夫だ、誰も来やしねぇよ。当たり前だ、誰にも邪魔させねぇ。いいか、俺がお前の名前を呼ぶから、お前も俺の名前、呼べよ。俺がお前の弱点見つけたらカバーしてやるから、 お前も俺をコントロールして見せろよ。

これからは二人だ、そうだろ?夫婦っつーもんはよ。


Canoe
(だってお前、今日何の日よ?初夜だろ、初夜)
- 090310 拍手御礼