「どうかしたの?千種」 「・・・・・・どうもしないよ」 「・・・でも、その・・・・・・・・・」 「何」 「・・・すごく、苦しそう」 本当に憂鬱だ。何がって、そんな事、の所為だ。 「病院行く?それとも医療班に来てもらう?」 俺なんかの為に、こんな必死な顔をして。何を求める訳でもないのに、こんな、の存在を利用しようと謀る男なんかの為に。彼女は気づいていない。自分が俺たちの敵であることに。大好きなパパがマフィアの長で、自分は俺たちの口車にまんまと乗せられてパパの行動を逐一敵に報告しているということに。俺たちはの愛しい愛しいパパを殺そうと企んでるやつらなんだって。仲間じゃない、敵だ。最終的にのことも殺すんだよ。何も知らない君を、目の前で裏切って。馬鹿な、よかったね馬鹿で。だからそんな呑気で幸せな顔ができるんだ、そうだろ? ほんと、どこまでも馬鹿みたいだ。そんなに、どうしようもなく魅かれている自分が。顔を見るだけで、まともに口が利けなくなる程に。彼女を欲している自分が。 馬鹿みたいで、憂鬱で、たまらなく情けなくて。 「私、骸さん呼んでくるね」 「・・・・・・・・・・」 「ちくさ・・・?」 俯いた俺の顔を覗き込むと、目が合って。予想はしていたものの、まだ慣れとまではいかなくて。心臓が、一気に煩くなる。そんな目で見ないで欲しい。そんな声で俺を呼ばないで欲しい。忘れられなく、なってしまう。 「・・・・・・くな」 「え・・・?」 「い、くな」 「でも、千種がこんな状態なのを放ってお・・・・・・」 「・・・ここにいて」 何と、情けない。深みに嵌ってしまうと、抜け出す時に、酷く苦痛を伴わなければならない。そう知っているのに、俺以外の名をその口が呼んだだけで、こんなにも頭が働かなくなるなんて。の手首を掴んで、抱き寄せて、どうするというのだろう。いっその事、突き放してくれればいいのに。もう俺には、卑屈な作り笑いすら出来ないというのに。 「・・・・・・・・・うん」 ホラ、そうやって従うから、俺はまた、 「・・・・・・、」 いなくなってしまえばいい。俺の前から、この世界から、なんていなくなってしまえばいい。この憂鬱と共に、俺の中からも。さえいなければ、そんなに楽か、どんなに解放的か、どんなに清々しいか。 どんなに、淋しいか。 今の時点でがいなくなった所で、俺がの事を忘れられそうにない事は、何よりも明白で。となると。その先彼女を失った俺がどうなるかなんて、想像に難くない事で。きっと、喜びも悔しさも情けなさも楽しさも切なさも、生きていると感じる術も、眠れなくなる事も、叫びたくなる事も、全部、無くなって。 つまらない毎日の中、ひたすらに俺は、今以上に無感情になるだろう。 そう思うと、もう何も考える事が出来なくなる。意味も無く、を離したくなくなる。傍に置いておく権利も義務も、好きだと言う勇気も方法も、俺には何一つ、無いというのに。 あぁ、もう 「、嫌い」 そして俺は、また一つ心からの嘘が上手くなる。 |