めんどい いつからだったっけか、もう忘れたけどこれが口癖。だってめんどいモノはめんどいし、それを否定しても徳にならない。めんどいから何もしないでいると、気が付けばあたりは無色で。 そうだな、血の色ぐらいだよ、色が付いて見えるのは。それを嫌だとも思わないなんて、もう末期なんだろう。あーあ、何の末期だよバカ。 微かに振動する、電波を受け取った最先端のカタマリ。ポケットに手を突っ込んで、アンテナを親指と人差し指でつまんで遠慮がちに取り出すと、ソレは振動を止めた。 ・・・・・・何だよ、何が気に入らないんだ。 不覚にも愛しい(と思う)名前が表示された小さいディスプレイ。さっきまでか細い電波で繋がってたの携帯のナンバー。かけ直すのはめんどいけど、でも急用だともっとめんどい事になる。一応は彼女だし、自分といる以上は危険もないとは言えない訳で。 「もしもし・・・」 「千種?」 「・・・何」 「珍しいね、千種が電話くれるの」 向こうで、非常に呑気な声がする。どう考えても危険な状況ではなさそうだ。もう、これだから、ホントに。よく考えてみれば、命の危険な状況下で電話をかけれるほどは器用じゃない。と言うよりもきっと、そこまで頭が廻らないと思う。そう、きっとそうなのに。 と出逢う前の方がもっと、頭もキれてたかもしれない。相手の心理状態やその環境が察知できないようでは、この世界じゃやってけないってのに。今はもう何だか、とことんそういった感覚が鈍ってしまっているようで。特にホラ、あまり言いたくはないけどさ(めんどいし)、がする行動とか、発する言葉とか、全部予想なんてつけれなくて。イライラして、腹立って、めんどくなるのに。から離れられないのは何でだよ、ああもう。 「・・・さっきかけてきたのじゃん」 「ゴメン、冗談よ」 そう言ってくすくす笑うの、その表情は容易く想像できて。まだそんなに鈍ってないのかもしれない・と、ちょっとだけ安堵した。 が過去に自分から一度だけ離れていった、あの日。あの日はもう、一生分のめんどさを一気に受け止めた気がした。 足が棒になるぐらい歩いて、走って、いなくなったを探して。口が裂けるぐらい喋って、離れてしまったを手繰り寄せて。腕が壊れるぐらい力を入れて、泣き出したを抱きしめて。 分かってたんだ、そんで、今も分かってる。もっと積極的に行動すべきなんだってのは、何となく。めんどいなんて言葉は誰でも使ってるからと、やけに余裕でいて。その結果、を失いかけた。余裕ぶってた反動かは分からないけど、とにかくあの日はホント焦った。自分にここまで必死になれる力があることに至極驚いた。そして、何だかんだ言ったって結局、を離したくはないんだと悟った。 そうだ、思い出したよ。訂正する、血の色だけじゃなかったから。そうだ、がいたんだった。 「・・・・・・別になんだっていいけどさ」 「ん?」 「あんまめんどい事しないでね」 「・・・千種?どしたの?」 「心配するから・・・」 の言葉を最後まで聞かないでそう言えば、微かな電波の向こう側で、がびっくりしたような気配があった。驚くなんて失礼な、自分の女の心配ぐらいさせてくれって話。 同じ失敗を二度も繰り返すような、そこまで愚かな人間にはなりたくないから。それに、そんなんじゃこの先、を危険な目に遭わせてしまうかもしれないから。ていうかそれ以上に何よりも、もうあんなめんどい日が来るのは嫌だから。こんな事、絶対口に出してなんか言ってやらないけどさ。これからはちゃんと拾うよ、今まで拾えなかったの気持ちも、全部。もうこの際、アンテナつけてやってもいい。どんな電波でも、のなら絶対受信できるような、でっかくて性能のいいヤツ。 「・・・・・・ちょっとさ、気が向いたから会いに来てよ」 |