俺は、いつから笑い方を忘れたんだろう、いつから話すことをめんどいと思うようになったんだろう、いつからこんなに消極的になったんだろう。俺の中の絶対的存在(骸さま)は、いつからこんなにも脆くなってしまったんだろう。そしていつから、
君のことをこんなにも愛しく思うようになったんだろう。何で今、俺は何も言えずにいるんだろう、気の利いた、場を盛り上げる言葉の一つや二つ、どうして出てこないんだろう。
目の前の君を微笑ませることができるような、歯の浮くようなセリフでもいいから、何か、何で、何で何も出てこないんだろう。 「、」 どうして君は、こんな俺と一緒にいるの。骸さまとか犬とかその他大勢とかの方がもっと、を喜ばせてあげれると思うんだ、俺は。でも俺は卑怯だから、骸さまとか犬とかその他大勢とかがに手を出すのを、きっと怨んで憎んで嫉妬して、許さないんだ。それがどういうことかって、簡単に言えば、俺は、、君が好きで好きで仕方がないんだと思う。そんでは、こんな俺が愛しいと言ってくれるんだろ、そうだろ? 知ってるよ、そのくらい。 「なぁに?」 だから、ねぇ、今ここで抱きしめてもいいだろ。俺のこのどうしようもない性分は、すぐには治らないんだ。そりゃ素直になれればどれだけいいか。もっと君に、笑顔を見せてあげれるなら、それがどれだけいいか。知ってるよ、いつもが俺の表情読むのに必死なことぐらい。ゴメン。ほんとにゴメン。そんな心配しなくても、君には心底参ってるんだ。(って伝えられたらどれほど楽だろう!) 他に手がないから、だから抱きしめていいだろ? 「・・・こっちおいで」 ゆっくりと、が近づいてくる。その間がすごくもどかしい。早く俺の腕の中にきて、それで、俺の名前を呼んで。声を聴かせて。弱ったもんだ、両手を少しだけ広げてを迎える準備万端な俺の姿は、俺から見れば母親に抱いてもらうのを待ってる赤ん坊みたいだ。おいで・なんて、俺が言えた台詞じゃない。(俺をそんなにしたのは、でも、だから) 「ちくさ? どうした、の」 やっと、の左腕が俺の右手の人差し指に触れた。いてもたってもいられなくなって、の腕を掴んで引き寄せる。語尾がちょっと歪んだけど気にしない。小さくて細っこい体が、俺の腕に収まった。そう、これだ。俺のいとしいひと。 もうどこにもいかないで、なんて一生無理なんだって。トイレに行くときは腕を解かなきゃいけないし、ご飯も食べないと死んでしまう。(生き物は不便だ) 骸さまの命令が下れば、なんか絶対連れて行けない。ていうか連れて行くもんか。それに第一、そんな台詞は女々しい。だから言葉に出すことはしないし、そんなことを考えるのも止めることにした、ついこの間。 その代わりに、俺は思いついたんだ。別に俺は神様だとか超能力者だとかじゃないから、まぁ不可能なことではあるんだけど、それはそれでいい。 俺は、君といるこの時が、今止まればいいって思うことにするんだ。このままずっと。思考も感覚も働かなくたっていい、そうやってずっと、君のそばにいるんだ。まぁ、所詮無理な話ではあるんだけど。(でも、そうでも思わないとやってけない) 「ねぇ、ちくさ・・・?」 心臓の辺りで、小さくが言った。『なに、?』って訊けば、『ちくさ、どしたの?』って言った。俺はどうもしない・と言うか、こうしたかったんだ・と言うかで迷ったけど、前者は嘘だからやめた。そしたらは、俺の背中に手を回して、ぎゅっと抱きついてきた。(ちょっと待ってそれはひじょうに危ない) 『嬉しい』なんて言わないで、体温と心拍数が上がる。脳が溶けて固まってしまったらのせいだ。知ってるの、温度って下がるのには限界があるけど上がるのに限界はないんだから。 「ちくさとこうやってるの、好きだな」 またそうやって言うの、だから俺ほんとに困るから。いいの、俺だんまりだよ、無口だよ、面白くないよ一緒にいても、笑わせることなんてできないそれでもいいの?それでも好きだって言ってくれるわけ? まさか! 嘘吐かないで、そうやって俺を許さないで、大好きな君に、何もしてあげられない俺なんて。 「静かで優しくて、こんなに落ち着くの、ちくさだけだよ」 またほら、そうやって言うんだ、君は。君も卑怯だよ、俺のいとしいひと。嗚呼どうもありがとう。なんか馬鹿らしくなってきた。 単純なことなんだ・なんて、あたかも知ってたみたいになんか言えるかよ。俺には理解するのが難しいことなんだ。でも事実、俺は君を愛してるし、 君は俺を愛してる(ってことにする)から、多分はじめから何も問題なんてなかった。 今なら、言える気がする。できる気がする。微笑むことだって何だって、できる気がする。それで、きっと君も微笑むと思うんだ。俺の大好きな、あの笑顔で。 「・・・あい、してる」 |
君は『知ってるよ』って微笑んだ。ほらみろ、当たっただろ!
くるり:BABY I LOVE YOU
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